音楽健康福祉士が「介護」を変える 〜介護付き有料老人ホームアンサンブル【心の丈】〜

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芸術と福祉、実は密接な関係があることをご存知でしょうか。介護付き有料老人ホームにて音楽健康福祉士として働く私たちの取り組みをお話させていただきます。

メディカル・ケア・サービス株式会社
アンサンブル大宮 音楽健康福祉士

 

大西竜也

 

「健康寿命を延ばす」それが、私たち音楽健康福祉士の仕事

「芸術」と「福祉」、これらは関係が無いのでしょうか。私は違うと考えています。音楽は音による芸術、人の理性や感情にうったえるものですが生活や人生の質を高め健康寿命を延ばすことができると思われるからです。

 

介護付有料老人ホームアンサンブルでは、ご入居者の「表情が明るくなった」「笑顔が増えた」「はつらつと行動されている」などの声が多く聞かれます。私たち音楽健康福祉士の取り組みも一役を担っているのかと考えています。

生活・人生・命の質を高める。健康寿命を延ばすためには必要です

唄を歌いながら振り付けをするプログラムはとても人気があります。五感を使った多方面からのアプローチにより心が動かされ、頭の運動となり効果につながります。特に人気のコンテンツでは、レクリエーション終了後「楽しかった!」や「終わった!疲れた~!」「お腹すいた~」等の声が聞こえてきます。

 

このレクリエーションは週5日間、各フロアで行っています。ご入居者の中では習慣化しており、始まる時間になるとフロアに出てきて待っていてくれます。認知症症状があり、レクリエーションの予定を忘れている方も「何か楽しいこと」が始まるんじゃないか? と感じソワソワされながら待たれている様子が伺えます。

日常生活においては五感を使った刺激は大切なもの。習慣の中に取り入れることで、その方が行動する理由づけになります。「生活の質を向上していただくため」にです。その方の一日をつくるようなイメージでしょうか。

 

歌う、体を動かすなどプログラムに参加してもらえるのが一番嬉しいですが、参加されなくてもその場にいるだけで充分な刺激になると考え、継続して参加されることをおすすめしています。導入された初期の頃や、ご入居されて日も経たない方は、なかなか参加していただけなくプログラムを見られているだけでした。

 

「一緒に歌っていただけますか?」などお声がけし、楽しさをお伝えすると参加される方も多くなってきました。リズミカルに体を動かし、掛け声も聞こえるようになり、今ではしっかり運動していただけるようになっています。健康寿命を延ばすためには大切なことなのです。

音楽健康福祉士が行うプログラムの効果とは

人間の五感には「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」とありますが、その五感にプラスして「感情」「運動」の合計7項目の感覚を刺激するために、様々な手法を音楽をベースにプログラムの内容を組み合わせます。


それらを組み合わせることによって「未病」と呼ばれる病気の前段階で健康な体に戻し、五感を健全な状況に保つことで認知障害などの問題を予防。高齢者の生活の質の向上と健康寿命の延伸を図ろうとする予防療法を「心音レインボートレーニング」といいます。

 

音楽やレクリエーション、音楽療法に運動療法やアロマセラピーなどを加えたこのトレーニングメソッドを習得した人が「音楽健康福祉士」として認定されます。

 

高齢者の方々の状況に合わせて適切な予防療法を選択し、組み合わせて、認知症をはじめとした高齢者の病気予防のみならず、軽度認知障害(MCI)の改善を含めた認知症予防や介護予防につながる指導が行える専門家、それが「音楽健康福祉士」なのです。

 

私は入社後数年をかけて資格を取得しました。自分の習得した資格の役割や効果を実感することで、音楽健康福祉士としてのやりがい、楽しさ、そして責任感に気づくことができました。

アンサンブル大宮ではここ2年、 誤嚥性肺炎と診断され入院された方がおりません

アンサンブル大宮のご入居者では、9割以上の方がプログラムに参加されています。これらのプログラムに参加されるご入居者からは「朝、体操や脳トレすると目が覚めて1日集中力が続き気持ちが良い」「毎日楽しみにしている」「今日はよく頭を使ったわ〜」「あれは良い運動になるわ」等の感想をいただけます。

 

例えば「色色JOY体操」というプログラム。これは、脳科学者の久保田競教授監修のもと振付師の南流石さんが共同制作した「座ったままで歌って踊れる体操コンテンツ」です。名曲を使い「振付にあわせ、楽しく歌いながら、体を動かす」ことで前頭前野を鍛えます。同時に体のトレーニングもできるため、健康維持につながります。

 

少々専門的になりますが、運動・音楽・アロマ療法など補完代替医療法の組み合せで参加群を対照群とで比較すると、認知機能の改善傾向が見られた(第19回日本補完代替医療学会学術集会での有効性発表内容について)との研究結果もあります。

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平たく言うと、音楽と様々な療法を組み合わせたプログラムで効果のほどを確かめたら認知機能の改善傾向が見られた、ということです。

「手指体操」手指の細かい動きを見て、真似をします。様々なタイプがあり「柔軟」「すっきり」「頭の体操」などがあります。

元教師で音楽が好きなご入居者の例をひとつ。ご入居時は内気な性格であったようで他ご入居者との交流を積極的に取られない方でした。音楽健康福祉士のサービスを開始してから半年後には、他のご入居者の前で唄を歌われたり、さらには体力もつき車椅子から押し車での移動方法に変わりました。いちばん驚いたのは、座位での体操から立位での体操に変わったことです。

どなたにも、どのような状況でも音楽療法をご提供することが可能です。例えばスマホなどの音楽を流すだけでも効果は期待できますが私たちは”生の音”にこだわり生演奏・生歌をご提供しています。(写真はご入居者の居室での演奏シーン)

 

そのため、個別音楽療法サービスのご提供も。集団でレクへの参加が難しい方向けにお部屋に訪問し弾き語り等で楽しんでいただいております。

 

その効果ですが、寝たきりの方への場合、まず呼吸に変化が見られます。直前まで鼾(いびき)をかかれている方も、音楽が始まると鼾がなくなり深い眠りとなります。はっきりと感じられるほどリラックスされます。他にも涙を流される方や、手拍子をされる方など様々な反応が見られます。ご家族様にも大変好評で、面会時にご一緒に楽しまれる方もいらっしゃいます。

 

これらの取り組みとの相関は不明ですが、アンサンブル大宮では、事実誤嚥性肺炎と診断され入院された方はここ2年間で一人もいません

とにかく毎日を楽しく!QOLを高める音楽健康福祉士のプログラム

毎日ここに集まればやる事がある。生活の一部になっている方もいらっしゃるかと思います。特別な事ではなく日常なのかもしれません。最近だと「ののちゃん」の手遊び歌が人気です。子供のパワーというのは我々大人には出せないもので、どんな方でも穏やかな表情をされ、一緒に踊っていただけます。スタッフも一緒になって緩やかで平和な時間を過ごしています。

 

ご入居者が好まれる音楽の演奏(アーティストやアルバム曲など幅広く)や、季節にちなんだ曲で四季を感じ体内時計をリフレッシュするなど音楽をベースにしたプログラムは毎日のように実施しています。他にも体を動かす、楽器を鳴らすなど身体と脳に刺激を与えるプログラムがあります。週1~2回程度15分~30分間で実施します。

 

一方で、機能訓練のコンテンツではリハビリに前向きな方が興味津々でお勉強と動作練習されています。例えば入浴動作編は、お風呂に入る際にどこに掴まると良いのか・足の開き具合や角度はどの程度なのかなどをゆっくり学んでいただきます。合わせて基礎の動き(お相撲さんの四股踏みのようなもの)を練習します。

 

認知症の予防やBPSD(認知症の周辺症状)の改善が期待できるミッケルアート※を楽しむ方もいらっしゃいます。昭和の懐かしい風景が描かれたテキストを見ながら昔の思い出話に浸ります。みなさんお話好きな方多いので、30分くらいその話で盛り上がることもあります。

【ミッケルアートとは】クイズ性を持たせた昔懐かしい絵画を使うことで、介護職員や入居者同士の会話を弾ませ、入居者の真のニーズを引き出していくコミュニケーションツールです。

基本的には毎日レクリエーションを行なっています。時間帯によっては介護職員やリハビリ職員などが塗り絵や折り紙など行い、楽しみを創出しています。様々な事情でプログラムが休みになる事がありますが「今日は無いの?』と残念にされている様子も伺えます。

 

自立されている方、車椅子の方、介護度によりサービス内容が変わる事もありますが、自立や車椅子の方が一緒に参加できるプログラムも用意があります。介護度の違いによるプログラムを各々に組んで対応することもあり、臨機応変にその方にマッチした対応を心がけています。

ご入居者お一人づつに合わせたリハビリもありながら、みなさま集まって体を動かすのも楽しみながらのリハビリでもある。

このように五感プラス「感情」「運動」の合計7項目の感覚を刺激する事を日常に取り入れ、楽しみながらご入居者の「生活の質の向上」と「健康寿命の延伸」を図っています。

 

ご家族からの評価も高くいただいていると聞いています。ピアノコンサートイベントを開くと毎回来てくださるご家族さまがいらっしゃいます。毎年楽しみにされているそうです。近所の方や絵手紙教室の先生も来てくださいます。

 

アンサンブルを終の住処に選んででいただいている方もいらっしゃいます。そのような時に「この方の最後の音楽を私たちが提供できた」という光栄感とともにやりがいを感じます。

ピアノ(生音)で唄を歌っています。気持ちよく歌われているている入居者様方、心地よい午後のひとときです

施設全体の取り組みとして

現在、日本には500名近くの音楽健康福祉士が存在しているとのこと。介護施設でいうと介護士との兼任やケアマネジャー、施設長と兼任であるケースがほとんどであると聞いています。

 

専従配置されているアンサンブルはあまり無いケースなのではと思えます。さいたま市にある介護付き有料老人ホームアンサンブル3棟には9名程の音福士の資格を持っているスタッフがいます。(2022年9月現在)

 

3か月に1度、音楽健康福祉士の情報交換のミーティングを開催し、オリジナルプログラムやイベント企画についてディスカッションし、業務の効率化・マンネリ化防止に役立てています。

 

今となっては、私たちの取り組みは他セクションとのリレーションを取りながら施設全体での取り組みになっているように感じています。

 

例えば、ケアマネジャーから「昔ダンスをされていた」とご入居者のお話を伺えば、ダンス体操やダンスの名曲を演奏したり、胃瘻の時間にBGMとしてキーボードで落ち着く楽曲を演奏すると、ご入居者ももちろんですが看護師も癒され室内全体が良い雰囲気になると好評だったり。

 

逆に私たち音楽健康福祉士からは「ご入居者から、このような反応をいただけた」等の報告をし生活相談員からご家族に伝えていただいたりなど、横断的な取り組みとなっています。

 

音楽健康福祉士は認知症を予防する取り組みが主体でありますが、認知症の改善など可能性はたくさんあるのではと考えています。


現在は介護付き有料老人ホームに専従配置されていますが、いずれは音楽健康福祉士の取り組んだ事を生かし、MCS全社において高齢者QOL向上に取り組んでいけるよう働きかけていきたいです。

【大西竜也 2017年MCS入社】

幼稚園の頃ピアノと出会い習得をはじめる。ピアノ以外の事に興味が湧き小学校の時は一時的にピアノから離れたが、あることがきっかけで再開。敬老会で合唱の伴奏をしたのが人生初めての舞台。本人曰く「自分のおばあちゃんに来てもらい、すごく喜んでくれたのを覚えています。もしかしたらそれが音楽と介護人生の始まりかもしれません」音楽専門の高校、大学で理論やテクニックを培う。アンサンブル大宮の音楽健康福祉士の募集がきっかけで現職。「心のどこかで、音楽で人の役に立ちたい、との思いがあったのでしょう」(本人談)

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